腕が上がらない…運動障害の危険性
腕を「上に上げる」という動作ができないという障害が、過去のワキガ・多汗症治療では、術後に頻繁に起きていたトラブルです。程度に差はありますが、手を真っ直ぐ上に上げることはもちろん、水平より上に上げることも難しくなります。そのため「タンスの上の物を取る」というようなあたりまえの動作がまったくできなくなってしまいます。
なぜこうしたことが起こるのか? それは当時の手術方法に原因があります。
その頃のワキガ・多汗症治療は「切除法」と呼ばれるもので、汗腺類が分布しているワキの皮膚を切除し、残った皮膚を引き寄せて縫合するというものでした。汗腺類をできるだけもれなく切除しようとすれば、それだけ広範囲にわたって皮膚を切除することになります。ですがその場合、縫合の際にはかなり強引に皮膚を引き寄せなくてはなりません。そのため傷が回復してもワキの皮膚が強く突っ張られ、「腕を回せない」「腕を上げる動作ができない」という運動障害が残ることが多かったのです。また運動障害を恐れて切除範囲を狭くすると、充分な効果を上げられない、というジレンマがありました。
現在の手法では運動障害はまず起こらない
さすがに現在では、この手法による手術はほとんど行われていません。ですから重篤な運動障害を心配されることはないでしょう。ただし剪除法のように切開を伴う手術では、術後のある時期、一時的に、こうした症状が表れることがあります。
皮膚を切開し、その患部が回復していく段階で、こうした症状は必ずと言ってよいほど表れます。ですがそれはあくまでも一時的なものにすぎず、切除法で見られるような重篤な状態にはまずなりません。たとえ突っ張り感が表れても、強い痛みを伴わないならば、むしろ積極的に腕を動かし、皮膚を伸縮に馴らしていくべきです。逆にこのときにしっかり動かしておかないと、その状態で皮膚が固定され、突っ張り感が残ってしまうこともあるのです。
現代の治療では神経損傷の心配はほとんど不要
別項でもお話ししていますが、ワキには大切な神経や太い血管がいくつも走っています。そのため手術にあたっては細心の注意が必要ですが、これらの大切な組織は汗腺類よりももう少し深い層に存在しますから、きちんとした知識と技術、経験を持つ医師がていねいに治療にあたれば、まず損傷することはありません。
「でも、カニューレで傷つけてしまう、ということはないの?」とご心配の方もおられるかもしれませんね。確かに吸引法や超音波法は手探りでの手術ですし、カニューレや超音波機器の扱いが未熟だと、重要な組織を傷つけてしまう危険もゼロではありません。
だからこそ慎重にクリニックを選び、医師を選ぶことが大切なのです。私はいろいろなところで「満足のいく治療を受けられるかどうかは、クリニック選び・医師選びでほぼ決まってしまう」ということを申し上げています。その理由が、まさにここにあるのです。
ワキガ・多汗症治療は今この瞬間にも着々と進化を続けています。ですが手術は医師自身の手で行われるもの。あなたが信頼できる医師を選び、そのうえで満足のいく治療を受けていただきたいと思います。
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