多汗症の神経手術では避けられない症状
代償性発汗はワキガではなく、多汗症の治療による副作用です。
ワキガと多汗症はともに汗腺の過剰な働きによる症状で、その治療法もそれぞれ共通している部分があります。ですがワキガの原因がアポクリン汗腺からの分泌物であるのに対して、多汗症はエクリン汗腺が問題の発生源であること、また手のひらや顔面、ワキから噴き出すように大量の汗をかくことなどから、多汗症のみに適応した治療が行われることもあります。そしてその代表的なものが「ETS」と呼ばれる治療法です。
この治療はエクリン汗腺を支配する交感神経を部分的に切除し、汗を止めるという手術法です。神経を切除することで、「汗を出せ」という汗腺への指令を遮断してしまうのですから、特に手の平の多汗症に対しては絶大な効果があり、広く行われている方法でもあります。
ですがこの治療を行うと、今度は別の場所から大量の汗が出始めるという副作用が高い確率で起こります。これが代償性発汗で、ETS治療を受けるうえでは「避けることができない」とまでいわれています。
実際に、顔面の多汗症に苦しんでいた方がこの治療を受け、顔からの発汗が劇的に少なくなったまでは良かったものの、今度は背中から汗が噴き出すようになってしまった…という例は非常に多く見られます。その煩わしさと苦しさ、辛さは想像以上のもので、さまざまな対策を施しても解決できず、うつ状態に陥ってしまう例も決して少なくありません。
代償性発汗の心配のない「ワキガ・多汗症治療」
このように、ETSは劇的な効果が見込める一方、大きなリスクもはらんでいます。そのため当院ではETS治療は行っていません。ですが患者様の中には、術後の代償性発汗を気にされる方が少なからずいらっしゃいます。
結論から申し上げれば、神経を傷つけず汗腺類を退治する一般的な「ワキガ・多汗症治療」では、術後に代償性発汗が起こることは絶対にありません。人間が全身からかく汗の量と比べれば、ワキからの汗の量はごくわずかなものですし、たとえワキから汗が出なくなったとしても、それは他の部分からの自然な発汗に振り分けられていきます。代償性発汗のように「これまで何の異状もなかった部位から、多量の汗が噴き出すようになった」という状況にはなりませんので、ご心配には及びません。
汗はニオイと同様に、自分自身でコントロールすることができません。そのため神経質に気にしてしまう傾向が多くの患者様に見られます。ですがワキガ・多汗症の治療は、あくまでも「病的なニオイと汗」を改善するために行うものです。正常な範囲内であれば、気にしすぎたり不安に感じたりする必要はありませんので、ご安心ください。
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